今回は建築家の伊藤博之さんにお話を伺ってまいりました。
東蒲田プロジェクトのコンセプト、特徴はどういったところでしょうか?
プロジェクトが始まり、まず取り組んだのは公園のような中庭を新たにつくることでした。
施主のプロジェクトに対する想い(プロジェクトvol.1参照)を元に、設計の打合せを重ねる中で、既存のオフィスビル(サンユー東蒲田ビル)と新しくつくる集合住宅の間に残される敷地を、緑豊かな中庭にし、地域に開放していこう。そして公園のような緑化された空間をつくることで、新しい集合住宅やサンユー東蒲田ビルがよりよい環境になるように計画していこう、という方向性が見えてきました。
現在、サンユー建設さんが大田区から譲り受けるクスノキをシンボルツリーとした中庭の計画を、建物の計画と並行して進めています。
施主と設計の検討を重ねる様子
サンユー東蒲田ビル前の道路からもピロティごしに緑が見える。
◆街と緑にオープンな暮らし方◆
集合住宅の当初の計画案は、中庭側にアプローチを設け、日影制限で削られてしまう隣地側にバルコニーを設けた形で、一番メインの居室が隣地側を向く配置でした。
しかし途中で、折角ならオープンな緑がある方へ居室を向けたほうが気持ちの良い空間にできるのではないだろうか?そのための配置計画は?と考えなおし、そうして試行錯誤を繰り返すことで、プロジェクトの骨格となる敷地内の緑地に開けた集合住宅の構成を作っていきました。
最終的な配置計画は、道路に面した棟と、奥の棟との分棟型になっています。一般的に、道路に面した南向きの住戸は環境が良いのですが、道路から奥まった敷地の住戸は、採光が取りにくく、特に1階は暗くなりがちです。
しかし、今回の計画では、新たにつくる中庭に開くことで採光や風の通り道を得ることができ、道路に面した棟と奥の棟が同じくらい豊かな住環境となり、奥側の住戸にも価値を見出すことができると考えました。
中庭向きの住戸の内観イメージ
◆建物の内外が穏やかに繋がる場所◆
今回、住戸の計画として特徴的なのは、住戸を3つのゾーンに分けたことです。バルコニーに面した居室だけでなく、水廻りを挟んで、玄関側にもスペースを作ることで、寝室とリビング、プライベート空間と仕事場など、生活のシーンを切り分けられるように計画しています。
1階のバルコニー側の居室は、直接道路や中庭からで入りができるようなっているので、小さなオフィスなどとして使ってもらってもよいかもしれません。
プライベート~(中庭)~パブリック
ベランダテラス〜(中庭の木々の葉)~景色
1階の窓〜(小庭)~道路
公共部分や屋外に対してオープンな空間の在り方を追求しつつ、視線を緩やかに遮るものがあることで、心地よい場所を創造しています。
◆入居者のスタイルに寄添う室内レイアウト◆
お部屋の暮らしをイメージする中で、現代の暮らし方、空間の使い方の多様性に柔軟に応えられる場所のあり方を追求しました。
多趣味で荷物が多い人
SOHOで仕事場としても暮らす人
明るい日差しで目を覚ましたい人
落ち着いた書斎が欲しい人
ライフスタイルによって好まれる空間や物の配置は異なりますが、広いワンルームではそういった使い分けは難しく、一緒くたになりがちです。
そこで、廊下を挟んで、両サイドに棚板やハンガーパイプ、カーテンレール、ライティングレールなど住む方がカスタマイズできる仕掛けを並べることで、小さな書斎を設けたり、服を見せて収納したり、そこに暮らす人が自由に使い方を発見できる空間に仕上げています。
≪インタビューを終えて≫
お話を伺う中で、施主の熱い想いを形にするために何度も検討を重ねてこられたことに加え、ここで生活をする人がいかに過ごしやすくまたご自身のライフスタイルを追求できる場所であるかをとても検討されていることに驚きました。オシャレな暮らしを追求される方にはもちろんですが、憧れつつもどうしたらよいのかな?と思ってしまう方にも、私だったらどう過ごすのかと暮らしのイメージを掻き立てられるような仕上がりに向けて設計が進められていることにとてもわくわくしました。
これから内装工事に進んでいくのがとても楽しみです。
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●伊藤博之氏 プロフィール
1993年 東京大学工学部建築学科卒業
1995年 同大学工学系研究科修士課程修了
1995~1998年 日建設計勤務
1998年 O.F.D.A.共同設立
1999年 伊藤博之建築設計事務所設立
2018年~工学院大学建築学部建築デザイン学科教授
●受賞歴(抜粋)
2008年 グッドデザイン賞(サンブスギの家具)
2008年 ミラノサローネ JAPAN DESIGN SELECTION(サンブスギの家具)
2014年 グッドデザイン賞(Hotel & Residence Roppongi)
2015年 SDレビュー鹿島賞(塔の躯体/辰巳アパートメントハウス)
2016年 東京建築士会 住宅建築賞 (DECKS)
2016年 グッドデザイン賞(DECKS、東新宿テラス、FARE祐天寺)
2017年 東京建築士会 住宅建築賞(辰巳アパートメントハウス)
2017年 AZ Award Residential Architecture Multi Unit最優秀賞 (辰巳アパートメントハ
2017年 AIA(アメリカ建築家協会)Japan Design Award (辰巳アパートメントハウス)
2018年 RIBA(王立英国建築家協会)Awards for International Excellence(辰巳アパートメントハウス)
2019年日本建築学会作品選奨(辰巳アパートメントハウス)
伊藤博之建築設計事務所 公式サイト http://ito-a.jp/